あぁ我らの母校~○○○~♪
峠の麓はまだ見えず、ぜぇぜぇ、息をきらして電動自転車を押してあるくは男汁。
さてさてまぁなんとか麓を抜けて、山脈を下るのは爽快でありもうした。
ところでこのまままっすぐ行けば浦富に着くと聞いた。そこで僕らはガソリンスタンドのあんちゃんに道を聞きつつ、戯れる老婆二人に罵声を浴びせながら、以前、雑誌とかでも注目されていた浦富の近くのスパゲティカフェに到着。飯うまし!
さてさてここからは秘密のお話。
実はあの二人にも隠している最大のミスがある。
これは店のオーナーに道を聞いた瞬間に発覚したのだが、
峠を越えたのは間違っていなかった。その後に問題があったのだ。
つまり「その山」は北西に向かって伸びており、僕らが峠を越えて進み申したのは北東であった。
「その山」の裏手、つまり北西に位置するのがまごうことなき、浦富海岸の始まりであって、そして大陸沿いに弧を描いているわけである。つまり浦富海岸の終わりは北東であって
そう、僕らがまず浦富と言って着いたのは、浦富の終わりで、全く全貌がわからない位置にあったのだ。
最悪なショートカットである。
峠を越えてまっすぐではなく左に進んでいれば…
…
スパゲティをすするお二方、ここはなんとしてでも欺かなければ…!
無意味に変な汗が首から、全身から吹き出した。
考えあぐねて、思いついたのは簡単なことだった。
これしかあるめぇ!
「なぁ、遊覧船に乗らないか?」
「あぁ?」
首をかしげる二人にお構いなく、話した。
「だからよ、遊覧船だって。岩礁を近くで見れて、面白いんだ。それに乗っとかないと来た意味もないと書かれてる。少し山を登るがさっきほどのしんどさじゃねぇよ」
「まぁいいんじゃね?与助はどうだ?」
「いいよ、いいよ。せっかくここまで来たんだ、乗ろうぜ」
ほっと一息。
ここまではなんとかごまかせた。問題はまだ先にある…
店を出て、自転車で西へ向かう。何度か違う道に入ったりもしたが、海岸線沿いに山を登ることができた。この時点でばれるのではないかと若干不安に駆られたが、疲労でそれどころではない。
…しかし…まぁ
絶景である。所々、ガイドブックにも載ってはいなかった展望台が次々に見えてくる。そのたびに僕らはエメラルドブルーの浅瀬に浮かぶ島を眺めたり、マリンブルーの遠瀬に浮かぶ島々に歓喜した。山々に囲まれた未開の美しさ。誰にもけがされる恐れはないと思えば、いつまでも心に閉まっておけそうなそんな風景であった。
まぁ、そんな感傷に浸れちゃうような場所であるので、地図上の道順なんてあいつらの頭には思いも浮かばないだろうさ!ぐははは!はぁ、ていうか何で俺がここまで考えなきゃいけないの?もしかしてあいつらの方が今この時を幸せに過ごせてるのではないの、…。ああ!憎らしく思えてきた!あの眼鏡とジャリめ!喰ってしまいたい!その幸せごと喰い申してしまいたい!
というても自分に責任があるわけでそんなことはできないのだが…くっ
なんやかんやで景色を見ている内に僕もどうにかしたのか、そんなことはどうでもよくなってきた。いつもの旅ではないか…。旅とは目指すところに一直線に向かうことではない、むしろ寄りたいところがあれば、回り道をして、結局迷って行き着いた先は目指した場所よりもはるかに美しい景色が広がっていたりもする。
なんて誰か言っていたのを思い出したりもするもんだ。
なんとか遊覧船乗り場に着くと、次の出港まであと30分くらいある。その間にレンタサイクルに電話をかけて遅れる旨を伝えた。義光と与助さんはうなだれるようにもたれかかり、仲よさげに、変な色のアイスをぺちゃぺちゃとなめていた。三人でタバコをくゆらせて、いよいよ出港となる船にのった。
かもめの群れが後ろから船の轍をおいかけるように、飛んでくる。
みゃーみゃーとうるさく、しょうこりもなく、飛んでくるのだ。きっと配られたかっぱえびせんが欲しいのだろう。何個か誰かが投げてやると嬉しそうに、またみゃーみゃーと鳴いて際限なくおいかけてくるのだ。
ああ
そうか
つまりこいつらは二人ともかもめなんだ。あほなんだ。自由に、正直に目の前のことを乗り切ってゆく。僕みたいに地図にしばられているだけじゃないのかもしれない。ようし!僕もあほになろう!かもめのようにあほになろう!
大声で奇声をあげながらカメラを振り回すと後ろからチョップが飛んできた。
「うるせぇ!だまれ!」と義光
「おまえ、あほか!他の客もおんねんぞ!静かにせぇ!」と与助
うぅん、かもめにも礼儀があるようで、もう少し修行せねば…
船はゆっくりと岩礁島広がる浦富の本場を迎えてゆく。
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