三人とも絶望という衝撃が体に走ったに違いない。あぁ、相違ないさ!本当にここを登ると言うのか!?忠太郎さん!義光さん!
「そこに山があるから俺たちは登るのさ!」
アイキャンビコウシズイッゼアという訳でございますね。
港の漁師さんに浦富海岸の遊覧船への道を尋ねたら、すごくそっけない感じだったけど、でも教え方はとても丁寧だった。
立ち並ぶ民家に挟まれた坂道を僕らは重い電動自転車を押しながら歩いて行く。
傍らにある民家の前で佇んでいたおばちゃんが「あら、大変ねぇ。」とでも言いたげな目をして微笑んでくる。「大阪から来ました。」と言うと「あれまぁ、はるばる遠いところからご苦労さんですねぇ。」と笑顔で応えてくれた。
前から男性二人が歩いてくる。梅田や心斎橋にでも売っているような服装をしている。やはりああいう洒落た服はどこにでも需要はあるものなのだろうか。
港町の学校の前を通り過ぎる。小学校だろう。ここの子供たちは毎朝こんな坂道を登ってるのかと感心する。
義光さんが遠くに歩いている女子高生を発見すると忠太郎殿が反応する。
「おぉ、こんな田舎に…。」
その女子高生たちを追い越して、一息ついた。
たいぶ登ったなと後ろを振り返ると、まさしくそこは海の見える街だった。
しかし、歩けど歩けども坂道はまだ続いている。
さっきまでこの電動自転車のお陰で軽快に走っていたというのに、今となってこの鉄の塊が邪魔で仕方ない。バッテリーの重さも相まって殺意が湧く。破壊衝動が湧くのさ。
今登っているのは先ほどの坂道とは違って完全な山道なので、車の交通は少なかった。だからその分空気も澄んでいて、それでいてこの山道から見える景色にも圧倒されっぱなしだった。海に点々と小さな島々が浮かんでおり、その岩肌には所々に松の木が生えていた。海の色は澄んでいて、特に浅瀬の透明感には心を奪われる程だった。こんな景色があるのだなと感傷に浸る。忠太郎さんも義光さんも感動しながら写真を撮っていた。
実は今目指している浦富海岸へは通常バスで行くようなものなのだが、っていうか先ほど我々の横を通り過ぎて行った浦富海岸行きのバスが憎たらしくてたまらない。
でも、こういう景色をゆっくりと満喫できるというのなら、こうやって自転車担いで登るのも悪くないと思う。こういう計画を立ててくれる忠太郎さんには感謝の言葉しか出ない。
でも敢えて言わない私のこのツンデレ感。
山を登り切って、坂を下り、山道を抜けた先には先ほどのとは別の港町に着いた。
…多分別の港町だったと思う。なんせ山道に入ってからは方向感覚なんてとうに消えうせてどこが西か東かなんてわかりっこなかった。
というか忠太郎さんがどうにもこうにも地図を我々に見せたがらないから、もう忠太郎さんに任すしかないのだが。
そしてとうとう辿り着く遊覧船乗り場。ここまで来るのに約三時間。その苦労が報われると思うと三人とも椅子にもたれかかる。
義光さんと私はイカスミソフトクリームなんてのを頬張りながら、ボートが来るのを待っていた。
そして待つ事30分。館内放送が流れる。
「只今、ボートが到着しました。乗船する方は遊覧船乗り場までお越しください。」
いざ行かん。
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