Dodoria.blogはクリエイター職を目指す義光、忠太郎、与助の3人が
互いを切磋琢磨しながら実力向上を図り、仕上がった作品を記録として残すために設けられたブログである。
category:よしみつ短編集
学校の文芸部に寄稿したものをうp。
割といい出来に仕上がった。
割といい出来に仕上がった。
タイムカプセル
僕は皆が学校から帰った後、誰もいない校庭の隅にタイムカプセルを埋めた。そして僕に出会った。
*
今日、先生がタイムカプセルの話をしてくれた。先生は30年も前にタイムカプセルを埋めた。そのとき先生が大切にしてたものや、30年後の自分にあてた手紙、そういうものを丈夫な箱につめて、地面に埋めたんだって。なんだか面白そうで、僕もやってみたくなった。
僕は30年後の自分に手紙を書いた。僕は何をしていますか? こんな僕でもちゃんと大人になれましたか? そんなことを。そして一番大事なおもちゃをって思ったけど、やっぱり二番目に大事なおもちゃを選んで、その手紙と一緒に缶の箱に入れて、校庭の隅の大きな木の根元に埋めた。土を丁寧にかぶせて、しっかりと脚で踏み鳴らした。
そして振り返ると僕がいたんだ。
「父さん?」
僕は最初はそう思った。あまりに父さんそっくりだったから。でも違った。
「そう、僕はそう言ったよね」
その人は柔らかく笑ってそう言った。そして、
「僕は30年後の君だよ」
そう教えてくれた。
よく夢見てた。タイムマシンがあったらいいなって。
「30年後の、僕?」
「そう、そして君は30年前の僕だ。よく皆と『タイムマシンがあったら何する?』って話してただろう?」
「それじゃあ!」
「夢は未来で現実になった」
僕は嬉しくなった。僕の未来にはタイムマシンがあるんだ。
「でも、考えてたのと少し違った。過去には行けないんだ。皆がテストの答えを教えに行っちゃうからね」
「でも、それじゃあなんで、えっと、『僕』は過去に来てるの?」
「タイムカプセル」
と、未来の僕は踏みならされたばかりの地面を指差した。
「例外としてタイムカプセルを埋めた場所と時間、そこにだけはタイムマシンで行っていいことになっているんだ。タイムカプセルを埋めるというのは、いわば森で木に目印をつけていくみたいなものなんだ。もちろん掘り出すと決めた日になるまではいけない。未来は決まりごとが多いんだ」
僕はタイムカプセルを埋めた地面を見つめた。その下には間違いなくおもちゃと手紙が入った缶の箱が埋まっている。そしてきっと冬眠している熊をこっそり北極にでも連れて行ったみたいに、ずっと眠り続けるんだ。
「僕は、未来の僕は何してるの?」
「詳しくはいえないんだ。これも決まりでね。でも、夢をかなえているよ」
「ホント?」
「僕は、つまり君は沢山がんばったんだ。すごく沢山ね。学校の勉強だってなんだって、ちゃんと人の言うことも聞いた。30年前の僕は確か反抗期だったかな。人の言うことには反発してたよね。でも今になって、つまり君が大人になって考えてみると、そういったこともちゃんと理解できるようになる」
「僕は、ちゃんと大人になれた?」
未来の僕は少しだけ笑って、少しだけ目を伏せた。
「大人には嫌にでもなってしまうものだから、心配しなくていい。でも、ちゃんとした大人になるのは大変だよ。父さんの口癖だったよね」
と未来の僕は僕をまっすぐに見た。
「〝苦労は買ってでもしろ〟」
そういった未来の僕は、父さんとまったく同じだった。
「父さんそっくりだね」
僕がそう言うと未来の僕は笑った。
「は、はは」
少し苦笑いも混ぜて。
「そろそろ未来に帰らなきゃ」
「うん」
まだいっぱい聞きたいことがある気がしたけど、もう聞かないことにした。
「悪いけど、むこうを向いててくれるかな」
「未来の決まり?」
未来の僕が頷いて、申し訳なさそうな顔をしてみせた。
「いいよ。決まりは守らなきゃ、ちゃんとした大人じゃないもんね」
最後に、未来の僕は僕に言った。
「がんばってね」
僕は、未来の僕に言った。
「大丈夫、まかせといて」
僕は後ろを向いた。少し考えて、目も瞑った。しばらくそうしていた。なんだか地球が回ってる音だって聞こえるような気がした。そして30年後はあと何回地球が回った日だろうと計算してみた。だいたい一万回くらい。多い気も少ない気もした。
僕は目を開けた。そして振り返らなかった。そのままタイムカプセルを埋めた地面を念入りに踏み固めた。未来の僕が迷わないように。
それから僕は振り返った。誰も居なかった。大丈夫、任せといて。
僕は僕に言った。
*
「はあやれやれ、緊張した。見てくださいよ、この手の平の汗。ばれやしないかと冷や冷やしてました。それになんだかこそばゆくて仕方なかったですしね。あの喋り方」
「大丈夫、ばっちりでしたよお父さん。役者に向いてますよ」
「これでうちの息子も勉強するようになりますかね、先生」
「ええ、もちろんです。これくらいの子供は人の言うことはなかなか聞きませんものね。でも誰だって、自分の言う事だったら聞くでしょう? 二組の時任さんの子供さんなんか、これをやって急に成績が上がったんですよ」
「いやあ、でも息子のもとは私ですからなあ、わははははは」
End
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