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Dodoria.blogはクリエイター職を目指す義光、忠太郎、与助の3人が 互いを切磋琢磨しながら実力向上を図り、仕上がった作品を記録として残すために設けられたブログである。
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毎日SS書くのは割とたのしい。
速度とクオリティの両立が今後の課題か。



『うさぎの勲章』
 
 
 
俺はうさぎだ。うさぎでなくてはならない。夕日射すデパートの屋上で、俺は子供たちに夢と風船を配っていた。それは簡単なゲームだった。俺にじゃんけんで勝てば風船をもらえる。負けても何度だって挑戦できる。さらに言えば、このうさぎには指がなく、ゆえにパーとグーしか持ち札がないためパーを出していればまず負けることはない。この風船を100ほど配りきるのが俺の仕事であった。
俺がグーとパーしか出せないことを、たいていの子供は一度目で理解した。何度も行列の最後尾に戻ったりして、二度三度と挑戦する子供もいる。そうしたチャレンジを繰り返し子供たちは徐々に学習していく。中には10個ほども風船をいただいて、楽しそうに談笑しあうママ達に自慢する子供もいる。
ひとり、ずっと負け続けている男の子がいた。
「じゃんけん、ぽん」
そいつはまたチョキを出した。俺はグー。
負けるたびに少年は俺を睨んで、最後尾へと戻っていく。いたたまれない気持ちは1ピコグラムほども湧かなかった。むしろほくそ笑んでいた。学習能力ないなこのガキと。だがそういった子供にこそ俺は希望を見出せたし、ほかの子供は勝利の方程式を学んでしまっていて、媚びたように負けるのは思いのほか退屈だった。百人も相手をすればストレスだって溜まってくる。
またそいつの番が来た。
俺はグーを出す。
男の子が最後尾に戻る。
うさぎの中でにやにやと笑う。そんな俺は大人気ないかもしれない。器が小さいかもしれない。そのような背徳感もまた、いつしか俺の原動力となっていた。ここまでして勝ち続けていると譲れないものが出来上がるのだ。積み重ねたつみきのように。だから俺は、その男の子に対してだけ本気で取り掛かる。彼以外の子供はすべて、あたかも工場の流れ作業のように俺はこなしていた。彼以外の一人として、俺は顔を覚えていなかった。
パーを出して負ける。
次。
グーを出してあいこ。
パーを出して負ける。
次。
男の子がやってくる。
グーを出して勝つ。あいこにさえならない。気持ちいい。そして俺はやっているうちひとつ気づかされる。それは積み上げてきた勝利の快楽をすべてなし崩しにする考えだった。男の子は、俺に気遣っているのではないか? 負けまくっている俺を憐れんでいるのではないか。それは不快感さえ催す考えであった。
パーを出して負ける。
グーを出してあいこ。
徐々に、男の子の番が近づいてくる。パーを出して負ける。夕暮れも過ぎつつあり、ほとんどの子供が、親に連れられて帰りだす。うさぎ型風船をくゆらせながら、自慢げに親に見せびらかしながら、俺の中では先ほどの考えが渦巻いていた。グーを出してあいこ。彼への勝利がすべて無意味なものに思えた。パーを出して負ける。男の子が来る。いいだろう。俺は彼に対してうさぎになる。うさぎはパーとグーしか出さない、うさぎは何の計算もしない。うさぎは子供に夢と風船を配る。
男の子がまっすぐ俺を睨んでくる。
うさぎは微笑みかける。
「じゃんけん、ぽん」
うさぎはパー。
少年はチョキ。またチョキか。
思えば彼はチョキしか出していなかった。どうしてだろう。
ともあれ、うさぎの負けだ。
「おめでとう」
俺は風船を渡す。
少年は叫んだり、駆け回ったりしなかった。ただ手のひらで小さくガッツポーズを作り、風船を受け取った。そうして彼は帰っていく子供たちの中に紛れていった。
そうか。チョキしか出さないのか。
その意味がようやく分かってきた。
うさぎはパーとグーしか出せない。それなら勝率はお互い2分の1。
少年は俺にフェアプレイで挑んだのだ。そして勝った。
俺は初めて悔しくなってきた。
帰ってゆく人並みの中で、母親に注意されている子供がいた。男の子は言葉など耳に入らない様子で、じっと風船を見ながら歩いていた。それは他の子供たちが持つ風船よりも、俺の目にはずっと大きく、勲章のように輝いて見えた。
 
 
 
        了
 
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