ひとり暮らしの慌しい日々

 　朝、小鳥たちの鳴き声は、私にとって一日の産声のようなものだ。くさい。とてもくさいですね。でもこれくらいロマンチストだったらきっと、世界も美しく映るよね。

というわけで、こんばんわ。最近、モンゴメリの「赤毛のアン」にはまってしまっている忠太です。風呂に入りながら読んでいると、ぼーっと、夢か現か、プリンスエドワード島の景色が、あ、小鳥さんが、小川のせせらぎが、天国からのお迎えが…

「だめだ。のぼせた」

風呂から千鳥足でなんとか出てみれば、小鳥の声なぞ、もうどうでもよくなった。頭が痛い。すごく痛い。ぴーぴーわめくんじゃねぇよ、頭に響くんだよ。とか理不尽なことを考えながらせっかくの朝の時間もむなしく、ベッドへダイブ。風呂上りのベッドって何でこんなに気持ち良いのだろう。

 　朝、子供たちの声に目を覚ますと、ずいぶんと心地がいいことに気づく。うぅん、風呂上りに寝てしまったか。そういえば、今日は午前の授業のTA（teaching assistant)の日だ。まだ眠いし、二度寝でもと時計を見ると、10時30分。んん？授業が始まるのは10時40分。そして学校までは7分。

「やっば！」
寝ぼけ頭に晴天の霹靂である。間に合うか。今から？間に合ったとしても事前に鍵を受け取らなきゃならないし、…いけるか？さもなくば
「教授に殺される」
いや、言い方が悪かった。正しくは「社会的に抹殺される」だな。とかどっちでもいいよ！いやよくないか。急いで部屋をでて、愛用のチャリンコにまたがり、ペダルをこれでもかと踏み込む。朝の澄み切った空気が心地いい。この凍てつくような寒さも…。そんなこと考えてる場合か！
結果として、授業に間に合った。寒い中待たされた学生たちはドアの前でみな一様に不機嫌そうな顔でこちらを振り返る。
「おはようございまーす！いやぁ、遅れちゃって申し訳ないね！」
まぁいつもどおりだ。顔に満面のいやらしい笑みを浮かべて、乗り切るのが常套策ともいえようか。こっちだって毎回、好きで遅刻してるわけじゃないんだ。あ、毎回て言ってしまった。ほんと、心の底から申し訳ないと思ってるんだよ。（このペテン師が！という義光の声が聞こえてきそうだ。）

業務が終わり、一日の授業が始まる。この辺から記憶があいまいである。いやいや、決して寝ていたというわけではないのですよ？そういえばセンター試験の解答が新聞でも発表されてるそうですね。早く国語のマーク回答方式が廃れればいいのにと願う今日この頃。うららかな午後の日差しが、ブラインドを通して、床に散らばった宝石のようにきらきらと光を投げかけている。

「いい午後は友達だ」
などと、口走りそうになるが、そんなこと言ってみればやはり、社会的に抹殺されるのだろう。
ひとつ、ため息。
国語の現代文にしても古文にしても、マーク回答なんておかしいじゃないか。国語に正解なんてあるもんか。いろんな感情が流れるなかで生まれた作品に正解をつけるなんて、それこそ作者への冒涜に他ならない。そうだ。もっと自由であるべきなんだ。

自然言語処理。言葉が頭をよぎる。いまや分析によって作者の文体まで解析できるようになった。LSA分析。潜在意味分析。いまや分析によって文章の意味を解析できるようになった。エンターキーでポンってさ。とんとんとプラスチック製の机を人差し指でたたいてみる。横に座った髪の長い留学生が不思議そうに、指の動きを見つめてる。
とりあえずはそれでいいんじゃなかろうか。正解というよりは、正解に近いという考えの方が自分は好きだ。だって世の中だって、そうだろう、何ひとつ明確なことなんてないんだから。あれ？モラトリアムになってきてない？

などと思いにふけっている内に授業が終了したわけであって、決して寝ていたわけではないのだ！わかっていただけただろうか。（どこからか、結局授業聞いてねぇじゃんとかいう世迷い言が聞こえてきそうだが、それはおいておこう）

そして一日の授業が終わり、研究室へ。何やら男の人が電話を片手に何やら難しい日本語で話している。電話が終わると、院の懇意にさせてもらっている先輩がほのぼのとした僕の頭に言葉を投げかける。そう、笑顔で。
先輩「いやさ、家買おうか迷ってんねん」
忠太「えええぇえええ！？」

朝のとは比べ物にならない晴天の霹靂が今まさに頭に直撃した模様である。つづく。