鳥取のたび⑤ 『ティラノサウルス武士』

俺のターン！！
鳥取旅行レポートです。
 

民宿「すりばち」へ帰還したころには夜になっていた。相変わらず梅干しみたいに皺くちゃのおばあさんが我らに晩御飯を作ってくれていた。机にのさばった３つの膳。ありがとうと砂まみれの三人、老婆に媚びへつらう。三人、食卓に就く。いやよかった。よかったよなあ。ああよかった。と砂丘嬢の印象をディスカッションしていると、ほどなくしてお婆がごはんを持ってきた。さあ飯である。腹が減っては戦が出来ん。と割り箸を両手に、机をチキチキやっていた。忠太郎が真似をしだす。チキチキ、チキチキ。おかーさんごはんまだー？

すでに我々三人は、おかずと思しきものを食らい尽くしていた。

盆の上にのさばった茶碗。ごはんを乗せた茶碗であるが、脅威的な大きさを誇張していた。通常の３倍はでかい。アメリカ人も腰を抜かすスーパーサイズである。もはや茶碗と名乗ることを許してはいけない。洗面器、いや、炊飯器レベルといっては大げさだが、茶碗ぐらい大げさでもよろしい。問題は、そんな戦艦茶碗に搭載された、夥しい量の米粒である。確かに我々は、砂丘嬢討伐に明け暮れ、ゾンビ化寸前までに腹が空いており、その上、まだ若いといって差し支えない年齢であるから、食欲旺盛に思われがちだ。だからといって「盛れば食う」という話ではない。据え膳食わねば武士の恥というが、これを難なく食える武士はもはや人間ではない。熊武士か、獅子武士か、ティラノサウルス武士である。我々はまだ、生物学的には人間に分類されるのだ。そこのところを婆やは勘違いしておられるように思う。と反論しようにも、キッチンへ引っ込んでしまわれた。あるいは我々に選択の余地を残しているつもりやもしれぬ。ティラノサウルスも武士であるならば我々も、武士とはいかぬまでもせめて武士の隣人くらいを名乗りたい。それくらいは名乗る権利があっても良いが、ただ名乗るだけなら誰でも出来うる。そこでこの戦艦ヤマトである。老婆は我々を試しておられるのだ。与助、忠太郎、臆してはならぬ。また見くびってもいかん。相手は何十、何百、何千と群れているが、所詮は米である。一粒一粒粘着しあって、己が矮小さを数で補おうとする腐った精神を持つ輩共である。こんなものは歯牙にもかける必要はない。口を開け、群集を飲み込め。
そう暴君竜の如く。

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