「皆大好きリプトンのミルクティー!」が与助を待ってるわけで。手に取るわけで。
「あんた学生さんか。」
手に取った瞬間良く分からないおじさんに話しかけられたわけでね。
その時は確か、今日はミルクティーじゃなくてコーヒー牛乳にしようかどうか迷っていた時だったんですね。
今日はコーヒー牛乳にしようか、なんて考えに走るを思い留まって、再びミルクティーの方へと手を移すと同時に何が俺に囁くかのようにコーヒー牛乳へと導くが、いやしかし、ここは踏ん張りどころだぞミルクティー、たまにはいつもと違った昼を過ごそうやとコーヒー牛乳、いやしかしここで旧友を裏切る訳にはいかぬとミルクティー。
与助の脳内にて凄まじい葛藤がぐるぐると繰り広げられていく中、何者かが不意に、唐突に、あるいは彗星の如く現れた、そのつなぎがよく似合うおじさん。
自分が専門学生である事を言うと、
「お、そうか、悪いな。高校生に見えてもうたもんでな。」
と、何の気なしにそう返してくるおじさん。まぁ、腸煮えくりかえると言うか。
そこは黙っとこうよ…高校生って…。
「今からバイトなんですよ。」
「そうかぁ、若いのになぁ。頑張るなぁ。」
と言いながら手を動かして、賞味期限順に、商品の場所を置き替えていた。
どうやら搬入の仕事をしているらしくて、「大変そうですね。」と、別に会話を続けたかったわけでもないのに、ふと気づけば口に出してしまった。
「毎日同じことの繰り返しやで、同じ作業を延々と続けていくわけやからな、その内頭パァ~ってなるで。」
見ず知らずの自分にこんな弱音を吐くほどだから、よほど参っているんだろう。
与助も何故かそのおじさんの心情に共感が出来た。
「あんたも大変やろ、バイト言うたら、まぁ似たような事をずっとやらされていくわけやからな。長々とやっとったら気付けばロボットみたいなもんやで。」
喩えにする際、手の表現が面白かったので、思わず笑ってしまった。
「いやいや、そうでもないですよ。バイトの皆いい人だし、楽しいっすよ。」
と、よくあるマニュアル通りの返答をすると、おじさんは
「そうかぁ。まぁ、それが一番やろなぁ。」と皺付いた顔にニッと笑顔を作った。
ここからおじさんの長い長い話が始まります。
「人間関係が一番大切やな。
そういうのに苦労はするけどな。おじさんやないけど、おじさんの友達がな?
昔はそういう事があってん。そん時はそいつ以外に仕事の仲間が四人おってんけどな。
でもその内、三人と一人の関係が仲悪かったんや。
せやから三人はそいつにどっちにつくか迫ってきよってん。三人は仕事しだしてから知り合いだした仲やけど、もう一人は中学ん頃からの仲間やってん。
結局そいつはその一人の方についてんけどな。それからは大変やったらしいでぇ。年がら年中休みなしで働いとったからな。何年もそう言うのが続いてな。でもそういう苦労は乗り越えた先で報われんねん。そりゃそうやろ?
せやから友人は今となっちゃ三階建ての家に住んどるで。な?ええ話やろ。人間関係てのは時として慎重に選らばなあかんねんけどな。そいつの選択は間違ってへんかったんや。そいつもその友人も最後まで貫いとったで。で、今があるんや。」
なんだか普通に良い話を聞いた。
自分のような年頃にはこういう話は凄くタメになる。
「いやぁ、長々とすまんなぁ、ありがとうなぁ、こんな知らんおっさんの話し相手なってくれてなぁ。」
とおっちゃんは感謝してくるが、いやいや、礼を言いたいの此方の方ですよほんとに!なんかもう感動しちゃったよ!普通に良い話だったのがびっくりだよ!
何、何なのこの漫画のような展開。見ず知らずのおっさんに急に話し掛けられて、ためになる話を聞くって。
そこにも既に感動だよ!まさに青天の霹靂だよ!
良い話を聞いた。与助はこの話を今度、義光さんと忠太郎殿に話してやろうと思った。
この話を励みに今日も頑張ろうと、人知れずガッツポーズして、バイト先へと歩を進めた。
……時計を見るとバイト始るまで一分前って言う…。
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