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Dodoria.blogはクリエイター職を目指す義光、忠太郎、与助の3人が 互いを切磋琢磨しながら実力向上を図り、仕上がった作品を記録として残すために設けられたブログである。
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18時間寝てた。
おはようございます義光です。
先週ぶんの更新つーことで、とりあえず小説をうpしようかと思います。
久々にな!

だいぶ前に書いたやつだから、与助や忠太郎にはゾンビ級の白い目で見られることでしょう。
私は一向に構わん!


『押したい背中』


停留所に着いたのは、バスが来る五分前だった。すでに生徒たちの行列が出来ていて、俺はしぶしぶ最後尾に就いた。そして、その男に出会った。俺はそいつから目を離すことが出来なくなった。
男もどうやら生徒の一人らしい。茶髪の上に帽子をかぶり、厚手の黒いセーターにジーンズといったあまり目立たない格好で、俺に背を向け、何かを、たぶんケータイをいじりながら、スクールバスを待っている。向陽台高校においては、どこにでもいるような男だったが、俺はそいつの、特に背中から視線をそらすことが出来ないでいた。男の背中には何か、機械のようなモノが埋め込まれていたからだ。それは親指くらいの大きさで、平べったくて、丸くて、赤い。ちょうど男の肩のラインと、背骨が交差する位置に存在していた。俺にはそれが何なのかすぐに分かった。
ボタンだ。
エレベーターについているようなボタンが、そいつの背中に当然のごとく設置されている。俺は目を疑った。ついでに眼鏡も疑って、ちょっと外してハンカチで拭いてみたが、やはりそれは服飾品でもシールでもない、まぎれもなくリアルなボタンであるようだった。俺は、何か、この男の友達がイタズラでシールでも張ったのかと期待していたのだが、まあ、まあいい。
本物であろうと、偽物であろうと、俺には関係ない。
バスを待つだけの話だ。
俺はケータイを開いて時間を確認した。
毎回のごとく少し遅れているようだ。
……することがない。
もしも、もしもの話だけれど。
俺はケータイをポッケに戻し、男の背中を見ながら思う。
もしあのボタンが本物、つまりこのセーターを縫いでも背中に埋め込まれているモノだとすれば、ひとつ気になることがあった。
押したらどうなるんだろう?
自爆するんだろうか? 変形するんだろうか? あるいは何かと合体するんだろうか? ただ停止するだけかもしれない。突然歩き出して、おもちゃみたいな声をあげるかもしれない。それとも何の反応も無くて、不審そうな目を向けられるだけかもしれない。どうなるかは分からない。
押してみないと分からないのだ。
俺は、気づけばボタンに手を伸ばしていた。しかしためらいを覚えた。いきなり人の背中を押していいものだろうか。仮にもボタンがついているとはいえ、相手は他人である。他人に対して何かしら行動を起こすとき、まずは断りをいれるのが礼儀じゃないか? たとえばこれがボタンではなく、ただのゴミだと考えたらどうだろう。すいませんゴミついてますよ、とまず教えてから、取ってあげましょうって流れになるんじゃないか? まあ俺は、他人にそんなことやった経験もやろうと思う親切さも持ち合わせていないし、仮にするとしても相手が可愛い女の子でもないかぎりやらないけれども、しかし今俺はゴミならぬボタンを目前にして押したくてたまらない状況下にあるわけで、とすればやはり、礼儀を通すべきなんであろう。
俺は男の肩をぽんとはたいた。男が振り返る。
「あの、すいません」
「うん?」
男と目が合った。
俺はそこで口をつぐんでしまった。どう説明すればいいんだろう。まさかいきなり「背中にボタンついてますよ」とはいえない。変なやつだと思われて無視られる可能性が高い。変なやつに変なやつと思われたくは無いが、かといって他にうまい言い回しも思いつかない。くそ失敗だ。
不審がる男に、俺は謝った。
「いえ、なんでもないです。ちょっと知り合いに似ていたもので」
彼は首をひねって、また背を向けた。
背中にはやはりボタンがついている。俺は腕を組み、しばらく言い回しを考えてみた。この感じ、あれに似ているな。知り合いの顔に鼻毛が出ているのを発見したときのような、言うか言うまいかの葛藤によく似ている。単なる鼻毛であるならば、俺もここまで悩まなかったであろうに。ああだめだ。考えるのも面倒になってきた。バスはまだか。まだ来ないのか。と考えていたら、重いエンジン音が聞こえてきた。やっと来た。天からの助けだ。ノアの箱舟だ。ようやくこの苦しみから解放される。
バスが道路を通り、駐車場に進行してくる。
これでバスの中にへ入り、席に着いてしまえば男の背中を見ずに済む。そうなればさすがに、俺の好奇心も薄まっていくはずだ。あとは思い出さないように学校まで走って、試験を受けてしまえばいい。何の問題もない。
と、バスが入着するまでは思っていた。我先にと入っていく生徒たちを見て、俺は新たな問題が発生したのに気づく。
おそらく、男のボタンに気づいているのは俺だけである。しかし男がバスへ入ってしまってはどうか。かならず誰かは、背中のボタンに気が付くはずである。たとえそこで気が付かなくても、バスが到着して降りる段階になれば、嫌でもボタンは目に付く。
そのとき、その誰かがボタンを押してしまうかもしれない。
いや、いつか誰かが押すだろう。まだこの時点で押してくれるのであれば、俺は男がどうなるのかを見ることが出来るが、学校の中へ入ってしまえば、いつどこで誰が押すかも分からない。その際俺は、押して男がどうなったのかを知ることが出来ないのだ。ボタンは永遠に謎のまま、俺の心に残ってしまう。俺はきっと、しばらくは気になって夜も眠れない日々を過ごすハメになる。生徒たちも半数が入りきったところで、そのことを考えた。
それだけはいやだ。
どうせ誰かが押すのであれば。
男はバスに入ろうとしていた。
俺は手を伸ばした。
指先がボタンの表面に触れる。
それはひんやりと冷たく、つるつるしていた。
ためらったが、指を押し切った。
カチリ。
突然、男が驚いたように振り向く。その顔は恐怖で引きつっていた。
その途端、アナウンスが流れた。
『上ヘ、参リマス』
「うッ」男の体が宙に浮く。次の瞬間、そいつは空に飛び上がった。
「うわあああああ!!」
またたく間に彼は小さくなって、あっという間に空へ吸い込まれていった。絶叫も聞こえなくなった。俺はしばらく声が出せなかった。
やがて運転手と目が合った。彼もびっくりしたような顔をしていたが、乗りますか? と聞いてきた。俺はうなずいて、バスの中に入った。バスは満席の状態で、俺は一番前のシートを倒して、そこに座った。
バスが学校に到着するまで、俺は何も考えることができなくなった。
それでも窓から見慣れた校舎が見えてくる頃には、落ち着きを取り戻していたと思う。
俺は、さっき起きた出来事を回想しながらバスを降りた。道路にはもうひとつバスが停車していて、眠たそうな顔の生徒たちが降りてきていた。気だるげに下りるものもいれば、はきはきと降りてくるものもいる。校舎へと続く道路の脇には先生たちが居て、降りてくる生徒たちに挨拶していた。俺もその群れにまぎれ、重い足を進めた。
あのボタンを押したとき、流れたアナウンスが気にかかる。
あいつはどこへ行ってしまったんだろう。
ぱたぱたと、スニーカーがアスファルトを踏む音が近づいてくる。
「先輩ー」
後ろから知った声がする。振り返る気も起きないので、そのまま進んでいたら、やがて追いついたと見えて音が止んだ。
「先輩、おは……あれ?」
声が中途半端に途切れる。俺は気にせず歩いた。横に並ぶ気はないらしい。校舎が見えてきたあたりで気まずくなったので、振り向いてやると、そいつは指を構えていた。
まるで何かを押そうとするように。


END

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