忍者ブログ
Dodoria.blogはクリエイター職を目指す義光、忠太郎、与助の3人が 互いを切磋琢磨しながら実力向上を図り、仕上がった作品を記録として残すために設けられたブログである。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

義光ですこんにちは。原稿用紙5枚のショートの小説です。
よかったら読んでください。 


『夏の1コマ』
 
 
 
夜の公園ほど適した場所はないだろう。と天野幸人は考える。
 その『ゆうあい公園』は昭和の頃から変わらない。すっかり老朽化した木造ベンチ。鎖の錆びた危ういブランコに、ペンキの剥がれ落ちた醜いジャングルジムがあり、ホタルのようにぼんやり照らす街灯は、『時に放置された空間』という幻想的な雰囲気をかもし出す。この公園は、時代に取り残された一種の遺跡だった。
 幸人は友達を待っていた。
「友達……か」
 自嘲気味に、唇のへりを吊りあげる。
 良かれ悪しかれ、今日でその関係は終わるのだ。彼は、想い込んでいる女の子、桐本ひみかに告白するつもりだった。待ち合わせ時間より早く来てしまったが、あと数分で時間だ。几帳面な彼女のことだからきっと時間きっちりに来ることだろう。と幸人は予想する。
秒針の音が、何よりも鮮明に聞こえてくる。
 
かち。
 
心なしか緊張してきた。
もう少しで彼女がやってくる。そう思うとひざが震えてくるのだった。手のひらを見ると汗でぬれていた。慌ててジーンズに擦りつけ、よどみなく深呼吸する。そして誰もいないのにあたりを見回した。
誰かに見られているような感覚がある。
(やべえ。緊張しすぎだって、おれ)
 動悸がし始めて、気晴らしに時計を見た。安く流行遅れのデジタル時計が、午後十時を表示した。その時、
 ざり、と公園の入口から砂を踏む音がした。幸人は音のした方向へと視線を向ける。桐本ひみかがそこに居た。
 ついに来たのだ。
 
かち。
 
「や、やあ、ひみか」
 幸人はぎこちなく微笑んで、彼女を出迎える。ひみかの方も、やや不自然な笑顔を返してくれた。白のレースシャツに、ジーンズといったシンプルな服装だ。
「あ、待たせちゃったかな?」ひみかは初々しく呟いた。どうやら、場の雰囲気は飲み込めている様子だ。
「いや、ちょっとだけ、早く来たんだ。」あせりながら、安心させるように話す。「悪いね。こんな時間にさ」
「ううん」
 ひみかは笑って、少しうつむいた。
 眉の辺りまで揃えた前髪がやさしく揺れる。風に運ばれて、ほのかにシャンプーの、柑橘系の香りがした。ほんのり赤く染まった頬が何よりも可愛らしい。と、つい幸人は見とれてしまう。
「話したいことって、何?」
 ひみかが聞いてきた。
 幸人の心拍数が、少しずつ上がってゆく。
 
 かち。
 
「伝えたいことがあるんだ」
 全身をむしばむ緊張を押さえ込み、幸人は言葉をつむぐ。
「でも、言ってしまうのが正直怖いな」
「それって」
 顔を上げたひみかと、視線が合った。
 幸人はうなずいて、そして――
「おれ、ひみかのことが好きなんだ」
 言った。
 
かち。
 
 沈黙。
 続いて短く、息を呑む音がした。
 その一瞬が、幸人には時が止まったように思えた。
「え、えっと……っ」
 ひみかは目線を著しく動かし、
 幸人はほんの少し、後悔した。
「わたしは」
 ひみかが、震えた声でその続きを言った。
 
……。
…………。
 
…………かち。
幸人は震える手で、コントローラの○ボタンを押した。
淡く光るテレビ画面から、新たなログが書き出される。
『幸人君とはその、そういう関係にはなれない気がするの』
 ぶつ。唐突にテレビが切れた。幸人がゲーム機の電源を落としたのだ。
「やってられっかよ! こんなクソゲー!」激昂し、幸人はゲーム機から吐き出されたディスクを投げつけた。それはボロボロの畳の上へ、乾いた音を立てて転がった。
「なんだよ『夏の1コマ』って! 全然萌えねえよ!」
『夏の1コマ』そう書かれたディスクは、部屋の闇に飲まれて見えなくなる。やがて静かに、どこかで倒れる音がした。
「ちくしょう」と幸人は寝転ぶ。ばふっ、と布団のほこりが舞い上がる。
 静寂が部屋を支配する。壊れかけの扇風機だけが、カタカタと幸人に笑いかけている。
「うう……」
 せまい四畳半の部屋で、幸人は蚊の泣くような声で切なく叫んだ。
 
「ああ、彼女ほしいなあ!」
 
 
 
                                      End
PR
« 「壁」HOMEブログ紹介 »
POST
name
title
mail
URL
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret(※管理者へのみの表示となります。)
COMMENT
おもしろい!
すごくすらすら読めて面白かったです!
最後のオチまですっかりだまされてしまいました。

また読ませて下さいね!
忠太郎 2009/04/29(Wed)18:36:59 Edit Top
無題
なぁんてな!
改行多すぎて眼がおかしくなんだよぉw
切なすぎるわ!
忠太郎 2009/04/29(Wed)18:46:03 Edit Top
ほほう
まさか同志からコメントがくるとは
ていうか持ち上げて落としてんじゃねーw
これがイインダヨ! グリーンダヨ!
義光 2009/04/29(Wed)19:59:06 Edit Top
TRACKBACK
trackbackURL:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
組織名:
男汁会
Dodoria.Categories
義光のTwitter
忠太のtwitter
与助のTwitter
最新CM
[05/19 Backlinks]
[12/06 ニート]
[11/18 canon eos 600d kit]
[09/10 忠太]
[09/09 うんこのともだち]
バーコード
カウンター
ドドリア的今月のコミック
アクセス解析
Copyright © Dodoria.blog All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog
Graphics by 写真素材Kun * Material by Gingham * Template by Kaie
忍者ブログ [PR]