冷めきった珈琲に手を伸ばし、取っ手を掴むと同時に右手の人差指と中指に挟んでいた煙草の、その灰が珈琲の中にボチャンと落ちてしまった。
プロットの段階で、行き詰っている与助にさらなる追い打ちをかけるかのように、落ちたその灰は瞬く間に珈琲の中で形を崩していった。
一気にやる気が失せた。意気消沈して体を椅子にもたれ掛けると、部屋の空気が煙草の煙で充満している事に気がつく。
なるほど、酸素が足りないから、頭が働かず、思うようにプロットが進まないのか。
などと独り合点して、急いで窓を開けて空気を転換する。するとまだ残る冬の夜の冷たい風が与助の体をつく。
夜風に吹かれながら煙草を吸うのも乙なもので、なんとなーくその行為にノスタルジーを感じる。
そしてまたなんとなーく、そういうノスタルジックな気分に浸っていると、沸々と漫画のアイディアが浮かんでくるのだ。
突然ドアにコンコンとノックの音が鳴る。ドアを開けて顔を出したのは我が敬愛(笑)すべき兄上である。
兄者は今からTUTAYAにDVDを返しに行くついでに、ちょっと軽くドライビングでもしませんかと誘ってきた。
兄者は去年の暮れ頃、車の免許を取ったは良いものの、自分の車は持ってないので親の許可なしでは運転できないでいたが、こんな明朝の光が差すか差さないかの時間帯では許可入らずと考えているようで、親の寝ている隙にこっそり鍵を拝借して車の練習を敢行しようとしていた。
外は寒いので、上着を数枚着込んで、マフラーも巻いて、愛用のニット帽子も被って、玄関のドアを静かに開ける。
駐車場まで足を運んで、早速車を車庫から出そうとするが、何やらそれだけに手間取っているご様子。
車庫のシャッターは操作部に専用の鍵を差し込むと操作を受け付けるようになり、その間は鍵が抜けない仕様になっている。
なので兄者が車を出すまで与助は外で待たされる羽目になると言う訳だ。寒空の下は風が強く、いくら着込んでも布の隙間を通ってきて、体が凍えた。
「サブイ!サブイよ、にーちゃん!はよう車を出してくれよう!?」
「ちょっと待て!ここをこうして…えっと、あぁはいはい、ここをこうね。」
などと一人呟いて、指でOKサインを作って与助に見せてくる。そんなのは良いからとっとと車出せこの野郎、と中指を立ててやった。
エンジン音が鳴りだし、ライトが光る。ようやく車が動き出し、駐車場から出られた。
鍵を取り出して、パネルのドアを閉め、風に吹かれる中、急いで車まで駆けつける。ドアを開けて中に入ると、jason・mrazの音楽が大音量で与助を迎えてくれた。
うるさいわ!
後編へ続く(ちびまる子ちゃん風に。
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